ライアーゲームの二回戦会場は、すごく華やかだった。でも、こんな恐ろしいゲームの会場で、私は豪華な料理を楽しめるはずがなく。絶望的な顔で立ちすくんでいる周りの人達を見ると、怖いのは私だけじゃないんだ、という安心感が生まれた。でも、安心感が生まれたからといって、恐怖が消えたわけじゃない。今の私は、秋山さんがいる、そのことだけが支えだった。



「…食べないのか?」

「食欲無いですから…。こんな状況で平気で居られるの、秋山さんくらいで…」

「そうでもない。」



秋山さんの目線を追うと、一人の女の人が居た。サングラスをかけて、一人で黙々と美味しそうな料理を口に運んでいた。あの女の人は平気なのか、という疑問と同時に、秋山さんのパートナーになるなら、私なんかよりあの女の人みたいな方がふさわしいんじゃないか、なんて考えが頭をよぎった。秋山さんとあの人が、もし……。…って、何考えてるんだろう、私。



「食っとけよ。厳しい戦いになるぞ。」

「……厳しい戦い…」



厳しい戦い、それを聞いて、さらに怖くなってしまった。本当に、このゲームは恐ろしすぎる。…一体、どんな人がこんなゲームを考えたんだろう。










        *  *  *



秋山さんは、私が不安な時、ずっと傍に居てくれた。だから、私は少しだけ、ほんの少しだけ、怖くなくなった。(それでもすごく怖いけど。)
それでも怖くなって、大広間に行った。参加者もみんな、私と同じなのか、大広間に集まっていた。その人達の中から、秋山さんを見つけて、少しだけ安心した。



「秋山さん…、」

「どうした?眠れないのか?」

「…私、ゲームに勝つ方法考えてたんですけど、」

「何も浮かばなくて一人で居るのが怖くなった。」



ずばり、言い当てられて、改めて秋山さんってすごいなぁ、と思った。どうしてこうもわかってしまうんだろう。秋山さんは、人間観察をしているらしい。でも、どうしてゲームに参加したか、なんて知ったところで、どうするんだろう?そんなの聞いても意味がない気がしたけど、とりあえず、参加者全員にゲームに参加したか、とか色々聞いて、全部秋山さんに報告した。…そしたら秋山さんは、必勝法がある、なんて言いだした。



秋山さんの部屋で、その必勝法を聞いたとき、私たちは絶対に勝てる、と思った。…でもやっぱり、こんな夜に部屋で一人で居ると、すごく不安になる。どうしようもなく怖くなる。早く、このゲームから抜け出したい…。



「…秋山さん、」



無意識のうちに呟いたのは、あの人の名前だった。不安な時には、ずっと傍に居てくれた、私の大好きな人。



「……やっぱり、会いに行こう。」



何故か無性に会いたくなって、秋山さんの部屋に行くために、ひんやりとする廊下に出た。










        *  *  *



とんとん、と遠慮がちに扉をノックする。もちろんその部屋は、秋山さんの部屋で。



「…はい?」

「あ、私です。」

「……どうぞ。」



どうぞ、と言われる前にため息をついたような声が聞こえたけど…まぁ、聞こえなかった事にしよう。



「どうした?まだ不安なのか?」

「いえ…。まあ、それもあるんですけど…、なんか、秋山さんに会いたくなっちゃって。」

「…は?」

「あ、いいい、いえ、迷惑でしたよね?こんな時間に。…す、すみませんでした。私、やっぱり帰ります、」

「…別に良いよ。」



面倒くさそうな声。でも、その中に優しさもあって、私は「はいっ!」と元気良く返事をして、笑顔でソファに座った。そんな私の様子を、秋山さんは訝しげに見ていた。



「…?何ですか?」

「いや、君さ、怖かったんじゃないの?このゲーム。」

「…怖い、ですよ。すごく。」

「じゃあどうしてそんなに笑顔なの。」

「それは…、」

「それは?」

「それ、は……秋山さんが、居るから。」



ボソリと呟くように言うと、秋山さんは興味がなさそうに「…あぁ、そう。」とだけ返事をした。



「あの、秋山さんは…怖く、ないんですか?」

「…別に。怖くなくは無いけど…でも、少なくとも君よりは怖くないよ。」



にやり、と笑いながら言う秋山さんを見て、私はすぐにからかわれたんだと気付いた。でも、不思議と秋山さんになら…何を言われても、悪い気はしなかった。



「あの…、秋山さん、」

「ん?」

「何か、すみません、巻き込んじゃって…。それと、あの、…ありがとうございます。」

「…別に、俺が勝手にここに来ただけだ。」

「…でも、」

「君は何も気にするな。…俺は別に、迷惑だとは思ってないから。」



その一言が、私には嬉しくて、思わず泣きそうになった。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、秋山さんは少し笑いながら私の頭にポンポン、と手を乗せた。



「…あっ、ありがとうございました。もう、戻りますね。」

「ああ。…あ、ちょっと待て。」

「え?」



秋山さんはそういうと、ごそごそ、と机の中を探った。暫くすると、「あ、」と小さく声を上げて、机から小さく可愛らしい袋を取り出すと、私に手渡した。私は何だかよくわからないまま、その小袋を開けた。中に入っていたのは、可愛らしいブレスレットのようなものだった。



「…ミサンガ、だと思ってろ。」

「ありがとうございます。」

「いや、」

「…えっと…、それでは、また明日。」



にこり、と笑って、秋山さんの部屋を出て行こうとしたとき、秋山さんに腕を引っ張られた。



「…秋山さん?」

「あ、ああ、悪い…。気をつけて帰れよ。」

「はい、ありがとうございます。」



部屋を出て、少し歩き出した時、ハンカチを部屋に置いてきてしまった事に気付いた。持ってこようと、秋山さんの部屋の前に立つと、扉の隙間から、秋山さんが考え込んでいるのが見えた。



「…邪魔、したら悪い…かな。」



私はそろり、と気付かれないように部屋から離れた。やっぱり、秋山さんだって色々考えているんだ。私ばっかり、怖いわけじゃない。だから、秋山さんに頼りっきりなのは…やっぱり、いけないかな、と思い、今まで秋山さんに頼りっきりだった私が恥ずかしくなった。







本当はすごく怖い。でも、それはあの人も同じはずだから、
                              塚原さんに会ったのは、丁度その少し後だった。