「・・・別れよう。」
それは、一番あたしが恐れていた言葉だった。
「っ、あ・・夢っ・・!!」
ただの夢。
でも最近、見る回数が多くなってきた。
・・・恋人の瑠樺に、別れを告げられる夢。
「あーあ、正夢だったらどうしよう・・、」
本当は、わかってた。
瑠樺が東京に行こうとしてる事。
あたしに気を遣って、行こうか行くまいか迷っている事も。
全部、本当はわかっていたんだ。
あたしは瑠樺の邪魔になんてなりたくない。
瑠樺の夢なら、ちゃんと応援してあげたい。
笑顔で、見送ってあげたいんだ。
・・・だけど、瑠樺と離れたくない。
こんな想いじゃ駄目なのに・・・。
そんな事を考えると悔しくなって、思わず涙が出た。
「っ・・・わが、ままだなぁ・・・あたしっ、」
「――・・・何泣いてんの?」
後ろから、聞きなれた声。
それが瑠樺の物だとわかるのに時間はかからなかった。
・・・でも、こんな顔じゃ振り向けない。
「やっぱり泣いてんじゃん。・・・何かあった?」
そんな事をしてると、瑠樺は顔を覗き込み、そう訊いた。
いつもより優しい声。
・・・そういう優しさ、大好きで嬉しいけど、今は余計悲しくなる。
「・・・優しく、しないで、よっ・・」
「はぁ?お前何、マジでどうした?」
「るかのばぁーかっ・・!」
「あ?何だよ意味わかんねーよ!」
最終的には、悲しかったことなんて忘れて、笑いながら喧嘩になる。
あぁもう幸せだなぁ。
いつまでもこんな風に居られたら、なんて何度も考えた。
でも、毎回そんな事は無理だって結論に行き着いた。
今までありがとう。
もう、あたしは十分幸せなんだ。
・・今度は、瑠樺が幸せになる番だね。
「瑠樺ー。」
「何?」
「別れよっか。」
「・・・あ?何で?」
「んー・・何か、もういいかなって。瑠樺に飽きちゃったからさ。」
嘘を吐いたのは、瑠樺に気を遣われたくないから。
東京に行って、なんて言ったら、きっとあたしを選ぶって言ってくれると思うから。
「・・・、本気で言ってんの?」
「・・本気、だよ?」
涙が出そうになって震えながら吐いた嘘。
気付かれなかったか不安になる。
・・・でも、気付いて欲しい、なんて思ってる自分も居たのが少し悔しかった。
「・・・・嘘。泣きそうな顔してる。」
やっぱり気付かれてしまった。
それでも必死に涙を堪えて、できるだけ冷たい口調で言った。
「そんなこと、無い。・・とりあえず、もうあたしに近づかないで。バイバイ。」
そう言って、家を飛び出した。
零れだしてしまった涙を隠しながら。
あれから数週間。
瑠樺からの連絡はプッツリ途切れていた。
「・・・ん・・、」
携帯のバイブの音で目が覚める。
どうやらメールを受信しているようだ。
差出人の名前を見て目を見開く。
「う、そ・・・なんで・・?」
そこには、「瑠樺」とハッキリと表示されていた。
急いで本文をチェックすると、内容はいたってシンプルな物だった。
「『明日、東京に行くから暇だったら見送り来い。』・・・また命令系ですか。」
の前にあたしたち別れたんじゃなかったんですか。
あたしに近づかないでって言ったハズなんですが。
というか東京やっぱり行きたかったんじゃないですか。
でも、メールが欲しくてメールアドレスを変えなかったのも、アドレス帳から瑠樺の名前を消せなかったのも、自分。
今、メールがもらえて嬉しいのも事実。
・・・東京に行っちゃうんだ、なんて悲しんでるのも、事実だった。
「・・・明日、か。」
幸い、明日は何も用事が無い。
・・・数週間ぶりに瑠樺に会える。
そんな、淡い期待を込めながらその日は眠りについた。
張り切ってお洒落なんてしちゃってさ。
しかもお別れの手紙なんて書いちゃってさ。
本当、馬鹿みたい。
そんなどうでも良いような事を頭の中で繰り返しながら、とうとう見送りに来てしまった。
目の前には久しぶりに見る瑠樺が居た。
「・・・遅い。」
「昨日の夜メールしてそんな早く来れる訳ないじゃん。」
「お前が東京行くわけじゃねぇんだからすぐ来れるだろ。」
「女の子には色々あるんですー。」
いつもの軽い口喧嘩。
「・・・久しぶり、だね。瑠樺。」
「おー・・前は毎日会ってたからすげぇ久しぶりって感じすんな。」
「彼女、とか・・できたの?」
「んな数週間でできっかよ。」
「うっそだー、瑠樺なら居そうっ!」
「・・どんなイメージだよ・・・。お前は?」
「すっごい格好良い彼氏みっかった・・・って言いたいけど居ない。」
「まぁは当分できなそうだよな。」
「何それ。ひっどー。」
そんな楽しい会話も、ずっとは続かなかった。
「・・・じゃあ俺そろそろ行くわ。」
「うん・・・。あ、あのっ、」
「あ?」
「これ!手紙、書いてきたんだ。」
そう言って手紙を渡すと、瑠樺は吃驚した顔をした。
「・・・お返し。」
「えっ・・!?」
瑠樺から渡されたのは、一枚の手紙。
まさか、瑠樺もあたしに手紙書いてたなんて。
「・・・あたしたち考えること同じだね。」
「だな。」
出発のブザーが鳴る。
瑠樺はじゃあな、と小さく呟くように言った。
うん、また、とあたしは泣きそうな声で言ったけれど、それは聞こえなかったかもしれない。
電車は、瑠樺を乗せてゆっくりと動いていった。
「・・・っ、る、かぁ・・・、」
ホームには、あたし一人しか居なかった。
今になってやっと、瑠樺の存在の大きさに気付かされた。
・・・もう、当分瑠樺にはあえないんだ。
それだけで、涙が止まらなかった。
でももう、こんなあたしを抱きしめてくれるあの人は居ない。
あたしに優しく話しかけてくれるあの人は居ない。
「手紙・・・っ、」
瑠樺からもらった手紙の事を思い出し、それを開いてみた。
その手紙は、ただのメモ用紙を四つに折りたたんだだけの、質素な物だった。
手紙には、こう書かれていた。
「へ
本当は、あの日お前が俺をフった理由、解ってた。
前からお前が、俺が東京に行かないのは自分のせいじゃないかって悩んでたのも知ってた。
隠してて悪いな。
でも、その事言ったらお前は俺に東京行けって絶対言うと思って。
と離れたくなかったんだよ。
東京行く決心がつかなかったのは、のせいじゃなくて、俺のワガママ。
だから気にすんな。
今日俺は東京行くけど、
三年後、もしがまだ俺を好きだったら、絶対迎えに行ってまた告白すっから。
だからそれまで待ってろ。
瑠樺」
あたしはただ泣くことしか出来なかった。
瑠樺がここまで自分を想ってくれていることに気付かなかった。
それに・・・
「やっぱり・・・考えてる事、同じ、だね。」
あたしは、晴れた空に向かって小さく笑った。
おまけはこちら。
※瑠樺さんサイドのお話です。
あと、ヒロインちゃんの最後の呟きの意味がわかります。笑