「けほっ、ごほっ…」

「……………………」

「あーもう、すいませんっ!」



少し無理しすぎたかもしれない。
なんて、今更思ってももう遅い。
私は、事件の途中で仕事を休むなんてできなくて。
結局体調を崩し、先生に迷惑をかけている。

……最低だ、私。



「…別に構わないが。」

「でも…隣でこんなに咳してたら煩いですよね。」

「確かに煩い。だが、迷惑だとは思っていない。」



まるで私の心の中を見透かしたような先生の言葉に、
驚いて顔をあげた。
先生はいつもの表情でこちらを見つめていた。



「せんせ、今…なんて?」

「君のことだから、自分が迷惑をかけていると考えているのではないかと。」

「…どうしてわかったんですか。」

「……科学者の勘だ。」

「…実に非論理的ですよ。」



少し笑いながら言った先生に、私も笑いながら返す。
「勘」なんて、普段なら絶対に使わない言葉。
先生なりに、私を元気付けようとしてくれているのかもしれない。



「…そういえば。」

「え?」

「風邪は人に移すと治る、という実に非論理的な話があったが、」

「あー、良く言いますよね、そういうの。」

「その話が本当かどうか、試してみないか?」

「…え、」



何を考えているんだろう、と顔をあげる。
その瞬間、


…ちゅ、


軽い音をたてて、私の唇と先生のそれが重なった。



「…っ!な、湯川先生っ…!?」

「どうした?」

「なんでっ、き、キスするんですかっ!」

「だから言っただろう。風邪は人に移すと治る、という話が本当かどうか」

「そうじゃなくてっ…」

「…ただ話しているだけより移る可能性が高くなるだろう。個人差はあるが、上気道炎系の風邪なら喉の粘膜から、胃腸炎系の風邪なら消化管粘膜から感染する。君の様子を見ていると上気道炎系の風邪の可能性が高いから、」

「……もう良いです。どうせ先生はそんなことしか考えてないんでしょ。」

「そんなことはない。」



先生は、静かに、そしてはっきりと言った。






…君とキスしたい、と思ったのも事実だ。




微熱る